NIPT(新型出生前診断)とは、採血のみでお腹の赤ちゃんの染色体異常を”高精度”で調べられる検査です。
羊水検査や絨毛検査とは異なり、お腹に注射針を刺す必要がないため、母体へのダメージや流産リスクが少ないと言われています。
ここでは、NIPTで検査できることやその費用、従来の出生前診断との違いについて詳しく解説していきます。
NIPT(新型出生前診断)とは?
NIPT(新型出生前診断)とは、妊婦さんのほんの少しの血液から、お腹の赤ちゃんの染色体異常を調べられる新しい出生前診断です。
NIPTで調べられるのは、
・13トリソミー(パトウ症候群)
・18トリソミー(エドワーズ症候群)
・21トリソミー(ダウン症候群)
などの染色体異常です。
従来の出生前診断よりも流産リスクが少なく、妊婦さんの痛みや胎児へのダメージが少ないことから今注目を浴びています。
従来の検査と比較しても、検査自体の精度が高いという特徴もあるのです。
一方、NIPTは可能性を調べるためのスクリーニング検査であるため、陽性が出た場合には精密検査が必要です。
そもそもなぜ出生前に検査するの?
・出産に向けた早期の準備
・スムーズな他科への引継ぎ
・病気や染色体異常に対する心の準備
出産前に赤ちゃんの染色体異常が分かると、どんなメリットがあるのでしょうか。
染色体異常のある赤ちゃんの中には、生まれてすぐに手術や処置が必要な子もいます。
あらかじめ病気のことを把握できていれば、出産後の小児科や小児外科への引継ぎもスムーズにいくでしょう。
それだけでなく、妊娠中から必要な治療や支援ついて調べられることで、理解を深めることができます。
「赤ちゃんの病気とどう向き合うか?」「どう過ごしていくか?」など、向き合い方や環境整備について夫婦で考えることで、心の準備にも繋がるでしょう。
NIPT(新型出生前診断)を受ける理由は?94%以上が高年齢!
NIPTコンソーシアムが行ったNIPTを受けた妊婦さん約10万人を追跡調査した結果を見ると、検査を受けた理由の大半(94.3%)が「高年齢妊娠」であることが分かりました。
以前は35歳未満の方はNIPTを受検できなかったため、対象となった妊婦さんの平均年齢は38.4歳となっています。
理由 | 割合 |
---|---|
高年齢妊娠 | 94.3% |
出産既往 | 2.5% |
超音波マーカー | 1.9% |
母体血清マーカー | 0.5% |
その他(染色体転座など) | 0.9% |
赤ちゃんの染色体異常は妊婦さんの年齢と深い関係があります。
21トリソミー(ダウン症候群)の発症率は、20歳では1/1667、30歳では1/952、40歳では1/106となっており、妊婦さんの年齢と比例して高くなっていることが分かるでしょう。
その他の理由としては「染色体異常のある子供を出産したことがあるから」「超音波検査でトリソミーのある可能性が高いと言われたから」等が挙げられました。
高齢妊娠は35歳以上
高齢妊娠とは、一般的には35歳以上の妊娠を指します。
昔は30歳以上の妊娠を高齢妊娠と呼んでいましたが、晩婚化などの背景に伴い、現在は35歳以上となりました。
高齢妊娠にはリスクが伴うと言われています。
具体的には卵子の劣化等によって赤ちゃんの染色体異常リスクが高まったり、流産率が上がると言われているのです。
NIPT(新型出生前診断)と旧型(出生前診断)はどう違う?
NIPT(新型出生前診断) | 従来(出生前診断) | |
---|---|---|
検査方法 | 母体の採血検査のみ | 母体の腹部に針を刺して、羊水中にある胎児の細胞や絨毛を採取する |
検査できること | 13トリソミー 18トリソミー 21トリソミー | ・染色体の数の異常 ・構造上の異常 ・遺伝子異常 |
従来の検査では赤ちゃんの染色体異常を調べるために、妊婦さんのお腹に注射針を刺して、羊水や絨毛(胎盤の一部)を摂取していました。
確定検査であるため診断を確定することが出来ますが、羊水検査の場合は0.3%、絨毛検査の場合は1%の流産リスクがあります。
一方でNIPT(新型出生前検査)では、お腹に針を刺す必要はなく、母体の採血のみで検査が可能。
妊婦さんへの負担や流産のリスクも少ないと言われています。
感度・特異度が100%に近く、きわめて精度が高い検査ですが、非確定検査であるため可能性を判断することしかできません。
NIPT(新型出生前診断)の種類
出生前診断は「非確定的検査」と「確定的検査」の2種類に分けられます。
非確定的検査は染色体異常の“可能性”が分かる検査で、確定的検査は染色体異常が“確実に”分かる検査と言えます。
非確定的検査
非確定的検査とは、お腹の赤ちゃんの染色体異常について、その”可能性を評価する”ために行う検査です。
確定的検査よりも妊婦さんへのダメージや流産リスクが少ない点がメリットと言えます。
しかし、あくまで可能性を評価する検査であるため、非確定的検査で陽性が出た場合は、下記で説明する確定的検査を受ける必要があるのです。
この記事で紹介しているNIPT(新型出生前診断)は非確定検査に該当します。
確定的検査
確定的検査はお腹の赤ちゃんの疾患を”確定”させるために行う検査で羊水検査や絨毛検査が含まれます。
羊水検査では、羊水に含まれる胎児の細胞を採取して、染色体やDNAを調べることが可能です。また絨毛検査は、絨毛(胎盤の一部)を採取して染色体等を調べられます。
妊婦さんのお腹に注射針を刺して行う検査(絨毛検査の場合は膣から採取することも)であるため、母体への負担も大きく、数%の流産リスクがあるのが特徴です。
NIPT(新型出生前診断)は赤ちゃんの状態をどこまでわかる?
非確定的検査 | 確定的検査 | |
---|---|---|
検査名 | NIPT(新型出生前診断) | 羊水検査・絨毛検査 |
期間 | 9~10週以降 | 羊水検査:15週以降 絨毛検査:11~13週以降 |
対象(わかること) | ・13トリソミー ・18トリソミー ・21トリソミー(ダウン症候群) | ・胎児の染色体異常 ・遺伝子疾患の有無 |
ダウン症の感度 | 99.99% | ほぼ100% |
結果期間 | 採血後、1~2週間 | 羊水検査:約1ヵ月 絨毛検査:2~3週間 |
リスク | 母体へのリスクはほとんどない | 流産のリスクあり 羊水検査:0.2~0.3% 絨毛検査:1% |
NIPT(新型出生前診断)では、お母さんの血液に含まれる赤ちゃん由来のDNA断片を採取して、専用の機械で詳細に解析していきます。
例えば赤ちゃんが21トリソミー(ダウン症候群)の場合であれば、通常は2本である21番目の染色体が3本になっています。染色体の割合が通常の1.5倍となった場合に、結果が陽性となる仕組みです。
NIPTによって3つのトリソミー(13トリソミー・18トリソミー・21トリソミー(ダウン症候群))の可能性を調べることができますが、その病気の重さや症状までは見ることができません。
またNIPTで陽性になった場合には、疾患を確定させるための確定的検査(羊水検査や絨毛検査)が必要です。
NIPT(新型出生前診断)で検査できること
・染色体の異常(性染色体も含む)
・微小欠失症候群
NIPTは、主な染色体疾患である13トリソミー・18トリソミー・21トリソミー(ダウン症候群)の可能性を調べられる非確定的検査と説明しました。
しかし現在はNIPTも年々改良されており、性染色体を含めた全染色体の異常リスク判定が可能になりました。
性染色体異数性の疾患としては、女児に発症するターナー症候群(モノソミーX)やトリプルX症候群(トリソミーX)等が挙げられます。
その他、微小欠失症候群と呼ばれる染色体の一部の遺伝子群が抜けたり欠けたりすることで起こる疾患についても調べることが可能です。微小欠失症候群には、1p36欠失症候群などが含まれます。
NIPT(新型出生前診断)検査ではわからないこと
・知的障害
・発達障害
・視覚障害や聴覚障害
NIPT(新型出生前診断)では、知的障害の有無を調べることは出来ません。
21トリソミー(ダウン症候群)は知的障害を伴うことがありますが、NIPTでは症状の重さまでは調べることができません。知的障害は個人差があり、経験や環境によっても変化するため、断言が難しいと言えます。
さらに発達障害の有無も確認が難しいとされています。ADHDや自閉症スペクトラム障害などのメカニズムや原因は解明されていない部分が多く、NIPTでも確認をすることは出来ないのです。
またNIPTに限らずですが、出生前診断では赤ちゃんの視力や聴力の障害を検査する方法がなく、視覚障害や聴覚障害の発見も難しいとされています。
相場はいくら?NIPT(新型出生前診断)の費用
NIPT(新型出生前診断)の費用はどのくらいなのでしょうか。出産や子育てにはお金がかかるので、できるだけ費用を抑えたいと思う方も多いでしょう。
NIPTの費用は、8~20万ほどと言われています。
出生前診断は保険適用外であるため、すべて実費負担となります。
羊水検査など他の検査と比較してもNIPTは金額の幅が大きいという特徴があります。
理由は認証施設と非認証施設で分かれていることなどが挙げられます。
認証施設の場合は代表的な3つのトリソミーしか確認できないケースがほとんどですが、非認証施設であれば他の項目を受けることも可能です。
また、クリニックよって陽性が出た場合のアフターサポートや、検査時カウンセリングの料金に違いがあることなども理由として挙げられるでしょう。
NIPT | 費用の目安 | 検査できる時期 |
---|---|---|
13トリソミー(パトウ症候群) | 8~20万円 | 10〜16週 |
18トリソミー(エドワーズ症候群) | ||
21トリソミー(ダウン症候群) | ||
羊水検査 | 約15万円 | 15~18週目 |
絨毛検査 | 約15万円 | 11~14週目 |
母体血清マーカー | 2~3万円 | 16~18週目 |
胎児ドッグ | 3~5万円 | 10週目~ |
13番染色体トリソミー(パトウ症候群)とは?
13番目の常染色体が1本多い状態、または1本の一部が重複している先天的な染色体異常です。
約10,000人に1人の割合で生まれる13トリソミー。
8割に重い心臓病があり、他のトリソミーよりも平気寿命が短く、多くが生後一か月を迎える前に亡くなってしまうと言います。
症状としては脳の発達が遅く、成長がゆっくりであることが挙げられます。体格が小さく、唇や口蓋に亀裂があるなど見た目的な特徴も。
お母さんの年齢が上がるにつれて、産まれる可能性は高くなると言われています。
18番染色体トリソミー(エドワーズ症候群)とは?
18トリソミーは、18番目の常染色体が3本存在する染色体異常で、染色体の「突然変異」によって起こるとされています。
男女比は1:3と女児に多く、約6,000人に1人の割合で生まれると言います。
出生前の症状としては、胎動が小さかったり、羊水が過剰であったりなどが挙げられます。
生まれてきた赤ちゃんの90%に心疾患があると言われ、早期の治療が大切です。
受精しても出産まで至らず、流産・死産となってしまうケースも少なくありません。
21番染色体トリソミー(ダウン症候群)とは?
21トリソミー(ダウン症候群)は、21番目の常染色体が通常より1本多くなることで現れます。染色体異常の中で最も頻度が高く、600~800人に1人の割合で生まれると言われます。
以前は10歳ほどだったダウン症候群の平均寿命は、医学の進歩により現在は60歳ほどとなりました。
主な症状は知的障害や身体発達の遅れです。また顔つきや手指、身長にも特徴があります。
21トリソミー(ダウン症候群)も、お母さんの出産年齢が上がるほど、確率が高くなるのが特徴です。
NIPT(新型出生前診断)の流れ
いざNIPTを受けたいとなった場合、検査までどのようなステップを踏む必要があるのでしょうか。
ここでは、NIPT認証施設でNIPTを受ける流れについて解説します。
1.予約する
まずはNIPT認証施設での「検査前遺伝カウンセリング」を予約する必要があります。
9~10週が近づいたら、担当医に相談してみましょう。
Webの予約システムから予約できるクリニックもあります。
2.検査前遺伝カウンセリング
検査を受ける前に、原則はカップル揃って遺伝カウンセリングを受ける必要があります。
NIPTは赤ちゃんの命に関わる検査です。
適切な情報を十分に理解してから望むためにも、疑問点は納得がいくまで相談しましょう。
3.採血
採血ができるのは妊娠9週~18週と言われています。
NIPTは採血のみで検査が可能です。
基本はお母さんの腕から採血を行います。
遺伝カウンセリングと同日に行う場合もあれば、後日改めてという場合もあるでしょう。
4.結果報告(検査後遺伝カウンセリング)
NIPTの結果は、検査を受けてから約1~2週間程度で分かります。
検査の結果は「陰性」「陽性」、1%以下の確率で「判定保留」になるケースも。
結果に応じて、確定的検査に進むかなどカウンセラーと相談できます。
NIPT(新型出生前診断)で赤ちゃんの染色体に異常が見つかったらどうるす?
NIPT(新型出生前診断)は染色体異常のリスクが高いかどうかの可能性を判断する非確定的検査です。また、何かしらの要因によって陽性と判断されてしまう「偽陰性」の可能性も否めません。
そのためNIPTで「陽性」が出た場合は、羊水検査や絨毛検査などの確定検査に進み、赤ちゃんの染色体そのものに異常があるかを検査する必要があります。
羊水検査であれば15週目以降、絨毛検査であれば11週目以降に検査が可能です。確定的検査の結果が分かるまでは、約1ヵ月ほどかかると言われています。
羊水検査や絨毛検査は妊婦さんのおなかに注射針を刺して行うため、流産のリスクがある点を知っておきましょう。
染色体の異常ってどんな状態?
ヒトの染色体は、23本の染色体が2セットずつで合計46本あります。
1番から22番まで番号がふられた男女共通の常染色体44本と、性決定に関係する性染色体(XとY)が2本です。
染色体異常で最も多いのは、通常2本の染色体が3本になるトリソミーという異常です。前述した3つのトリソミー(13トリソミー・18トリソミー・21トリソミー(ダウン症候群))以外のトリソミーは、妊娠初期に流死産してしまうと言われています。
生まれてくることのできる3つのトリソミーは、症状の重さも多種多様で、個人差が大きいことが特徴です。
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新型出生前診断「NIPT検査」はいつからいつまでにすればいい?
NIPT(新型出生前診断)には認証施設がある
認証施設とは、日本医学連合会から認証を受けた施設で、臨床遺伝専門医の在籍や専門外来を設けているなど厳しい条件をクリアしています。認証施設は全国で400以上あります。
認証施設では出生前診断に精通した臨床遺伝専門医のカウセリングを受けられ、妊婦さんの不安に寄り添う体制が整えられていて安心です。
認証施設で検査できるのは13トリソミー、18トリソミー、21トリソミーに限られています。
最近まで認証施設では「35歳以上の女性しか受検できない」という制限がありましたが、2022年2月以降は希望する妊婦さん全員が受けられるようになりました。
NIPT(新型出生前診断)非認証施設はやめた方がいい?
日本医学連合会から認証を受けていない施設を「非認証施設」と言います。
マイナスな印象を感じるかもしれませんが、認証施設と同様、医師が在籍する医療機関です。NIPTの精度を比較しても差はないと言います。
非認証施設であれば
・3つのトリソミー以外の検査項目も選べる
・夫婦で来院する必要がない
・土日も診療している
など、自由度が高い点がメリットがあります。
認証や非認証に囚われず、自分に合ったクリニックを選択しましょう。
NIPT(新型出生前検査)の注意点
NIPT(新型出生前診断)は、お母さんの腕からの採血のみで検査可能であり、羊水検査や絨毛検査と比較しても母体へのダメージや流産リスクが少ないと言えます。
さらに他の非確定的検査と比較しても精度が高く、高精度な出生前検査として注目を集めてます。
一方で、染色体異常の”リスク”を検出する非確定的検査であるため、陽性となった場合には確定検査が必要です。
またNIPTを含む出生前診断は保険適用外です。
クリニックやプランにもよりますが、NIPTは8~20万円、羊水検査は15万円が相場と言われています。自費診療となる点を覚えておきましょう。
NIPT(新型出生前検査)は誰でも受けられる?
以前は認証施設で受ける場合には年齢制限(35歳以上の妊婦さんのみ)がありましたが、今は年齢制限なく、基本的に希望する妊婦さんは誰でも受けることが可能です。
しかし、病院によっては受検の条件が設けられている場合もあります。
適応条件が設けられている理由は、NIPTの結果が妊婦さんや赤ちゃんの人生に大きく影響を与えるためです。
受検を希望する場合には、受検したい病院の条件をよく確認しておきましょう。
NIPT受検条件
①胎児超音波検査で胎児が染色体数的異常を有する可能性を示唆された者
②母体血清マーカー検査で胎児が染色体数的異常を有する可能性が示唆された者
③染色体数的異常を有する児を妊娠した既往のある者
④高年齢の妊婦
⑤両親のいずれかが均衡型ロバートソン転座を有していて、胎児が13トリソミーまたは21トリソミーとなる可能性が示唆される者
引用:公益社団法人日本産科婦人科学会倫理委員会 母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針
上記は、日本産科婦人科学会が定めている適応条件です。NIPTを希望する妊婦のうち、いずれかに該当する者が対象と決められています。
受検条件のある医療機関でも、ほぼ同様の適応条件であると言えるでしょう。
④の高年齢とは出産予定日の年齢が35歳以上であることを指しますが、現在は35歳未満でも受けられる病院もあります。
NIPTがおすすめできない人
・既往歴がなく、20代で出産する方
一般にNIPT(新型出生前診断)を含む出生前診断は、35歳以上の高齢出産の方に推奨されています。
ダウン症候群の子が生まれる確率は、お母さんの出産年齢が20歳で1/1,068、25歳で1/946、30歳になると1/626人となっており、年齢と共に確率が高くなることが分かります。
妊婦検診でのエコー検査で問題がなければ、20代の妊婦さんには推奨されないこともあるでしょう。